開発者に聞く

同じ新素材製品の中でも、より高い酸素透過率を

技術開発課 マネジャー 今福 元アイケアカンパニー 児玉工場
技術開発課 マネジャー 今福 元

コンタクトレンズは、角膜の上に直接装用されます。ところが角膜は無血管組織ですので、常に空気中の酸素を取り入れなければならない。そこで「酸素透過性の向上」は、コンタクトレンズ開発における主要テーマの一つとなってきました。とりわけハードレンズに対してソフトレンズはそのハードルが高く、素材開発が進められてきました。 そんな中、ソフトレンズの次世代素材として注目を集めた素材がありました。「シリコーンハイドロゲル」といって、従来型のソフトレンズのようにレンズに含まれる水分を介してだけではなく、酸素を直接透過できる画期的な素材です。

早速、この素材を用いたディスポーザブル(使い捨て)レンズの製品開発に着手しました。他社との差別化を図るため、私たちは提供すべきユーザーメリットの第一として「圧倒的な酸素透過率」を目標に掲げました。しかし当然、素材メーカーから提供される既存の原材料を用いても、他社製品との差別化を明確にすることはできません。そこで、私たちは素材の分子構造設計やその合成方法から独自に研究を進めました。具体的に目指したのは、ハードレンズの酸素透過係数を超えること。どんな分子構造ならそれが実現できるのか、どうすればその物質を合成できるのか試行錯誤の連続でした。

さらに大量生産によるコストダウンを実現するため、キャストモールド製法という製造方法と、光によるレンズ硬化方法を導入しました。レンズ硬化にかかる時間は従来の熱による48時間からわずか20分へ、大幅な短縮に成功しています。

未知の技術領域「プラズマコーディング」を掌中に

より良い製品を世に送り出すために、私たちは新製品開発にあたってユーザーに、より快適に使っていただくためにどんな機能を付加できるかを事前に検討します。この製品の場合、「高い酸素透過性」に加えて「防汚性」、そして「UVカット機能」でした。この防汚性の実現も難問でした。シリコーンは水をはじく性質が強いため、涙液中の脂質やタンパクなどの汚れが付きやすいのです。それを解決するため、私たちは「プラズマコーティング」という技術によってレンズ表面をコーティングする方法を考えました。しかし、私たちにとっては未知の領域で、何の技術的蓄積もありません。どうすれば防汚性の高い膜を得られるか、小さいソフトコンタクトレンズの表面に均一な膜を大量生産で実現するにはどうすればいいのか、ここでも試行錯誤を繰り返して、ようやく汚れの付きにくい製品を安定的に製造する技術を確立できました。

こうして2009年、私たちが満を持して市場投入したのが1カ月定期交換のソフトコンタクトレンズ「HOYA エアリーワンマンス」です。今日ではシリコーンハイドロゲルを使った競合製品も各社から販売されていますが、その中でも非常に優れた酸素透過性と防汚性を誇っています。また装用感や乾燥感についてもユーザーの評価が高く、UVカット機能も備えていることで、販売店からも「ユーザーのリピート率が高い」という報告をいただいています。これまで当社の製品は乱視用や遠近両用など、やや特殊な分野が中心でした。しかし今後はさらにユーザーメリットのある機能を付加しつつ、市場での存在感を増していきたいと考えています。